それは「10年、サラリーマンに戻ろう。10年後、41歳になった時、自分にとって何の武器もなければ、子どもと妻との生活の為に定年まで勤めよう。」だった。
ユウサミイが40歳からプロになるって決めた。
ならボクにもやれるはずだ。間に合う。間に合わせて見せる。なんの根拠も無くそう思った。いや、思い込もうとした。
そして友人の伝手から会社を紹介された。
有難いことに雇ってもらった会社は、とても居心地が良かった。給料も休みも前職より増えた。何より話が合う同世代の仲間たちと出会えた。
このままここでぬるま湯に浸かっていてもいいかもな。
そう思う自分が確かにいた。
そんな中、勉強の為と思い、受け続けていたセミナーで一人のプロデューサーが言った一言に強烈に打ちのめされた。
彼はココプラを立ち上げ、ミクシィ全盛期に入ってきたものの、当初全く受けていなかったSNSである「フェイスブック」を日本でブレイクさせた仕掛け人。ネット策士。
天才であり、変態。(としか言いようがない)
「加藤いちろー」さん。
その日のセミナーは起業家を集めて、その場で現状打破の策を提案したり、ブレイクポイントを作るという、100人組み手のようなセミナーだった。
色々なジャンルの起業家が次々に声を挙げ、投げかける相談をちぎっては投げちぎっては投げと鮮やかに明快な回答をする中、本当に何気なく言った一言にボクは、打ちのめされた。
「ボクは何か変態的なスキル(USP)がある人をブレイクさせることは出来るけど、何も無い人を売れるようには出来ないんですよね。」
それはいちろーさんにとって当たり前のこと。
だけど、当時何も無い中平凡なサラリーマンをしていた僕には効いた。
あまりにも、あまりにもボクの事を言われた。と思った。
ボクは。
売れることが。
出来ないんだ。
今のままでは。
こんなスゲープロデューサーがいるのに、プロデュースしてもらう商材がないんだ。
だから起業しても成功しないし、このままサラリーマンをやらなければならないんだ。
ぬるま湯の中、自分で生きていく方向を決められず、右へ倣えで言われたことを淡々とやって、死んでいくしかないんだ。
死ぬ時に、子どもがいなければ、妻がいなければもっとやれることあったのにな。お金持ちに産まれてたらって思って死ぬんだ。
そんな自分に狂おしいほどの怒りが湧いてきた。
それは断固、拒否だ。あり得ない。そんなゴミみたいな死に様は許せない。
でも、どこに行けば武器が手に入るのか判らない。
何を、学べば良いのか、判らない。
迷子の迷子のコネコちゃんだ。泣きたくなった。
サミイの背中にこっそり誓った決意は、いちろーさんの一言で自分でも恐ろしいほどの焦燥感と飢餓感に変わった。