「ニケさん(師匠のニックネーム)、ふしぎ整体、教えてください。」
飢餓感と焦燥感、打算に押されての言葉だったと思う。
その時は整体家になるなんて思ってなかったかもしれない。
武器が欲しい。自信が欲しい。会社に行かなくても大丈夫な自分になりたい。
自分だけの都合から出た言葉だったと思う。
初めてだったか、師匠と遅い時間まで呑んでその勢いもあったように思う。
師匠はそれを見越していたのかもしれない。
師匠はボクの覚悟を試したのかもしれない。
師匠は弟子を取らないつもりかもしれない。
ちょっと考えてニケさんは言った。
「今はまだムリ」
断られた。けど引き下がる気にはなれなかった。
「今はってことは、いつならいいんですか?」
またちょっと考えてニケさんは言う。
「整体家としてやるなら、身体を作るとこから始めないと。それには時間がかかるよ。しんどいかもしれない。それでもやる?」
ハードル上げてきた。武術家の施術家に弟子入りかぁ。それは住み込みの丁稚奉公を意味していることは知っていた。ちょっと考えるような気になった。
「やりたいです。とは言え住み込みで弟子になれるほどの財力は正直ありません。それでも教えて貰いたいです」
「・・・わかった。ちょっと考えさせて。」
保留されたと思った。遠まわしに断られたのかな、とまた凹みそうになった。イヤだった。このままは。
”諦めるな。食らい付いて離れるな。目をそらさずに。背を向けるな。落とし前をつけるまで、まだ勝負は終わっていない。”
大好きなラノベの一節だ。頭をよぎった。
あの魔女たちは行き場が無かった。
ボクには逃げ道があった。
定職に就いていた。家族もいる。家のローンもある。ど不景気の中、定職を手放す事のバカらしさなんて言うに及ばず。
逃げる理由はいくらでもあった。
「そうですね、じゃあ整体家は諦めますわ。」
そう言って、ココロ・鍛錬道場に通って、整体してもらって、会社員やれば安全だ。
でもここで逃げたら死ぬまで逃げることになる様な気がした。
自分で決められない人生はもうイヤだった。死ぬ程。
落とし前をつけるまで、まだ勝負は終わっていない。
「判りました。じゃあ、うんと言うまで頼みます。」
直接そんな事を言ったかもしれないし、自分で決めただけかもしれない。
結果、3ヶ月くらいで師匠が折れてくれた。
ボクが折ったのかもしれない。
初めて、本気で、自分の為に、欲しいと思ったものを人にお願いして、得た。
「ふしぎ整体Basic講座、作ったから。」
師匠に言われた。即申し込んだ。
そして大喜びで師匠のサロンで第一回目の講座が始まり。
ドキドキとワクワク♪なボクは、始まって最初の5分で
「やっべー。これはおかしな話になってきちゃったかも・・」
と変な汗をかくことになる。